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#7 あなたの知らないトイレ
トイレの「立ち位置」端っこ人気には理由があった! 後ろは嫌よ
最近、トイレに行く頻度が高まっています。今年26歳、年齢のせいでしょうか。立ち小便器の場合、どうしても奥の端を選びがちです。反論もあるでしょうが、用を足す時に周りを見渡してみても、端の利用を好む人が圧倒的多数を占めているような…。何か心理的な理由があるのでしょうか。背景を探ってみました。
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#7 あなたの知らないトイレ
最近、トイレに行く頻度が高まっています。今年26歳、年齢のせいでしょうか。立ち小便器の場合、どうしても奥の端を選びがちです。反論もあるでしょうが、用を足す時に周りを見渡してみても、端の利用を好む人が圧倒的多数を占めているような…。何か心理的な理由があるのでしょうか。背景を探ってみました。
最近、トイレに行く頻度が高まっています。今年26歳、年齢のせいでしょうか。外出先でもよく行きたくなりまして。個室でないフルオープンの立ち小便器の場合、どうしても奥の端を選びがちです。人が隣に来ると居心地があまり良くないので、できるだけ可能性を排除したいのです。反論もあるでしょうが、用を足す時に周りを見渡してみても、端の利用を好む人が圧倒的多数を占めているような…。何か心理的な理由があるのでしょうか。背景を探ってみました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
この現象、思春期の頃からずっと感じていました。公衆トイレに行くと、混んでいない限り、いかつい顔した人も小心者っぽい人も端に寄っていて、真ん中で堂々としている人はそこまでいないように思えます。
色々と気になるところなのに、最近はデザイン性重視なのか、隣から見えてしまいそうな小便器も増えているような気がします。視線の置き場に困ります。
ある日、何げなく『人は見た目が9割』(新潮社)を読んでいると出ているではありませんか。「パーソナル・スペースの影響を受けている」と書いてあります。興味深い。心理学の専門家に聞いてみましょう。
東洋大学の社会学部社会心理学科で教えている戸梶亜紀彦教授(感情心理学)の研究室を訪ねました。
まず、パーソナル・スペースとは何でしょうか。
「他者が近づいて来て、それ以上近づかれるのが嫌だなと思うスペースのことです。相手が知り合いの場合はせまくなるように、親密度などの条件によって距離は変わります」と教えてくれました。
さらに詳しく聞く前に、街で声を拾いました。東京都墨田区の会社員田中茂揮さん(28)は「トイレに入るとき、まず始めに入り口近くの端を見ます。きれいなら、そのままそこで。汚ければ真ん中を使います」。
「真ん中の床はきれいなことが多くないですか?」。その通りであれば、かなりの人が端を使っていることになります。
なぜ端を使うのか、戸梶教授の解説です。「端に行きさえすれば、少なくとももう片方には誰も来ないので、パーソナル・スペースを邪魔される恐れが少なくなります」
さらに田中さんは「後ろに誰かが待っている状態での放尿は厳しいです」と続けます。
これには「用を足す時は無防備なので、パーソナル・スペースが後方に広がって緊張状態になるため出にくくなります」と戸梶教授。
先ほどの田中さんの友人、横浜市神奈川区の奥山平洋(なりひろ)さん(27)の考えは少し異なります。
「通常は一番奥の端を使います」
理由を「入り口近くは後ろを人が通る、出なくなる、の繰り返しだからです」と語ります。
ですが、酒を飲むと考えは一変。「泥酔した時は真ん中がデフォ。解放感でしょうか。両隣に誰か来てもウェーイって感じです」と誇らしげでした。
先ほどの戸梶教授によると、「酔っ払っていると気がゆるむ(大きくなる)ので、周りの目があまり気にならなくなるのでしょうね」。
後ろに人が立つ、たしかに嫌です。記者の中学時代、トイレをしている人のズボンを下ろし合うというレベルの低い争いが起きていたことから、記者も人には敏感です。海外ですと、トイレで肩もみのサービスがあるといいますが、全く落ち着く気がしません。
新宿駅にいた会社員の田村英男さん(56)は「端が当たり前、だと思っていたけれど、年をとるにつれて気にしなくなってきたね」と話します。若い人ほど色々と気にしてしまうものなのでしょうか。
昨年、創立100周年を迎えたばかりの大御所・TOTOにも聞きに行ってみました。
東京広報グループの桑原由典さんは「端を使いたいですよね。誰もいなければ端を使う気持ちはよく分かります」と話します。
東京都内のオフィスビルで、2016年8月29日から約10日間にわたって実施された小便器の使用実態調査。1週間で約5千回使われる中、半数近い人が使ったのは入り口に最も近いところ。二番目は一つ間を空けたところでした。
同じくTOTOの東京プレゼンテーショングループの松澤雪子さんは「やはりパーソナル・スペースをとりたいという心理でしょうか。ただ、この調査では一番奥に手すりがついていたため、頻度が最も低い理由は奥だからなのか、手すりがあるからなのか、分かっていません」。
たしかに、よく見かけるトイレは入り口近くに手すりがついているタイプですよね…。
松澤さんは小便器の配置を含めた快適なトイレ空間全体を提案する仕事。小便器を連立する時の器具の間隔は80~90センチを提案していると言います。
隣からの視線が気になるトイレについて問うと、桑原さんは「先端がとがっているので近づきやすく、一歩前に出ることができるのではねにくくなります。近づいていただければ、隣の視線も気になりませんよ」と強調。便器と床の間に空間ができるため、掃除がしやすくなるとの利点もあるようです。
流行は仕切りを設置すること。20~60代の28.0%、学生の51.9%が隣の人との仕切りを求めているという調査結果も。
「後ろが気にならなくなる」という半個室型のものよりも、「やりすぎじゃない」「こもる感じのしない」という仕切り型が好まれるそうです。ここ10年くらいで仕切りを求める風潮が急激に高まったといいます。
「近年はトイレに価値が置かれているので、使用者にとってより使い心地の良い空間になるよう提案しています」と松澤さんがまとめてくれました。
近頃のトイレのきれいさや落ち着く感じは、目を見張るものがあります。見張れるほど大きな目ではありませんが…。
急ぐとも 心優しく手を添えて 的をはずすな マツタケの露
トイレによく書いてある言葉を忘れず、一歩前に出て、(やっぱり)端で用を足したいと思います。
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